忘られぬ死
Sparkling Cyanide

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ノンシリーズものの長編10作目(メアリ・ウェストマコット名義の作品を除く)。 “エルキュール・ポアロ”シリーズの短編「黄色いアイリス」を長編化したもの。 ポアロは登場せず、レイス大佐が4度目の登場。
1945年、Daily Express (9 July ~ 28 July 1945)に簡略版が連載された後、同年12月にCollins社から刊行された。 米国では1944、The Saturday Evening Post (15 July ~ 2 September 1944)に「Remembered Death」のタイトルで連載された後、1945年に同タイトルでDodd, Mead社から刊行された。
日本語初訳は1954年の『忘られぬ死』(村上啓夫訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)。

早川書房

(日本語版翻訳権独占)
1954
忘られぬ死
村上啓夫訳 早川書房 ハヤカワ・ポケット・ミステリ(107)
クリスティーの近年の諸作品を読んで、私はトリックの種切れによる本格探偵小説の行きつまりなどは、少しも憂うるに足りないものであることを痛感した。 クリスティーの近作の中心トリックは、二次的な小トリックを除いてはいずれも前例のあるものばかりで、それを巧みに組合せ、その組合せ自体に独創的な技巧を用いているのである。 この組合せの独創性が、トリックそのものの新工夫と同じくらい、人を打つものだと云うことをクリスティーの近作は実に鮮明に証明している。 「忘られぬ死」はその代表的な例である。 中心の最も大きなトリック、犯人の意外性は過去に於てロナルド・ノックスが使用したことがあり、一人二役の手法も、毒殺手段の奇術性にしても、皆何処かに先例のあるものである。 それにもかわらず、クリスティーの手によって組合され構成されると非常な面白さを生みだすのである。 一般に本格探偵小説は初期のものほど優れ、晩年には気が抜けてくるのが普通で、ドイルも、ルブランも、ヴァン・ダイン、クロフツ、フィルポッツも例外ではない。 ところがクリスティーは晩年ほど力の入った傑作を書いているおどろくべき創作力である。 江戸川亂歩

解説:江戸川乱歩「クリスティーの新傾向作」

その名のように美しく、激しい個性の持主で、莫大な遺産の継承者であったローズマリーは、花の盛りに不意に死んだ。 姉の死によって突然財産家になった17才のアイリスは、今でもあの忌しい姉の誕生パーティの夜を鮮明に思い浮べることができた。 音楽、ドラム、薄暗くされた電燈、余興、それからふたたび電燈が明るくされると、真っ青な顔をして痙攣を起し、テーブルの上にうつぶせになっていたローズマリー。 グラスから青酸加里が検出され、バッグの中から薬品の紙袋が見つかった。 遺書があり、ローズマリーは病上りで憂うつ気味だった。 それで自殺とされた。 他殺と考えるのは無理だった。 誰もローズマリーのグラスに毒を盛る機会を持てなかったからだ。 それからほぼ一年が経過したが、ローズマリーの強烈な存在は今なお事件のパーティに臨んだ6人の男女にそれぞれの思いを与えているようだった。 そのうちの一人、ローズマリーの夫ジョージ・バートンは妻の死に疑いを抱いていたようだったが、一周忌を迎える頃、一年前と同じ場所で同じ日時に同じ出席者によるアイリスの誕生パーティを催すことにした。 去年と違うのは空席がひとつあることだけ。 そして音楽、ドラム、余興があり、電燈がついて乾杯が行なわれたとき、呪われたパーティは再び新たな死を出席者の上にもたらしたのだった!……
1985
忘られぬ死
中村能三訳 早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫(HM1-80) ISBN:9784150700805
フロアショーのライトが消え、ふたたび明るくなったとき、ローズマリーは死んでいた……誰からも愛されていたローズマリーが、自分の誕生パーティーの席上で突如毒をあおって世を去ってから、やがて一年が過ぎようとしていた。が、夫のジョージは疑惑をぬぐいきれなかった。万霊節の夜、同じ場所、同じメンバーによるパーティーを催したが、そこで新たな悲劇が!鮮やかなトリックが冴える女史中期の秀作。
第一篇 ローズマリー/ 第二篇 万霊節/ 第三篇 アイリス
表紙:真鍋博
登場人物
ローズマリー・バートン富豪の女性。ポール・ベネットの相続人
ジョージ・バートンローズマリーの夫
アイリス・マールローズマリー・バートンの妹
ルシーラ・ドレイクローズマリーの伯母
ヴィクタールシーラの息子
ルース・レシングジョージの秘書
スティーヴン・ファラデー新進政治家
アレクサンドラ(サンドラ)・ファラデースティーヴン・ファラデー夫人
アンソニー(トニー)・ブラウンローズマリー・バートン友人
ベティ・アーチデイルメイド
ジョニー・レイス大佐。陸軍情報部部長
ケンプロンドン警視庁主任警部
2004
忘られぬ死
中村能三訳 早川書房 クリスティー文庫(84) ISBN:9784151300844
男を虜にせずにはおかない美女ローズマリー。彼女が自分の誕生パーティの席上で突然毒をあおって世を去り、やがて一年――彼女を回想する六人の男女がいた。彼らが一年前と同じ日、同じ場所に再び集ったとき、新たな悲劇の幕が上がった!複雑な人間関係と巧みなプロット、鮮やかなトリックが冴える中期の秀作。
解説:結城信孝「クリスティー〈黄金の12〉」

その他の出版社

2006
チムニーズ館の秘密
榛野なな恵 集英社 コーラスクイーンズコミックス
「チムニーズ館の秘密」「追憶のローズマリー」「ソルトクリークの秘密の夏」の3作品を掲載!

映像化

テレビドラマ
忘られぬ死 Sparkling Cyanide
1983年 米WBTV/CBS |Sparkling Cyanide (1983) on IMDb
※「スキャンダル殺人事件」のタイトルもあり。
監督:ロバート・M・ルイス 脚本:ロバート・M・ヤング、スティーヴン・ハンフリー、スー・グラフトン
出演: アンソニー・アンドリュース(トニー・ブラウン)デボラ・ラフィン(アイリス・マードック)パメラ・ベルウッド(ルース・レシング)ナンシー・マーチャンド(ルシーラ・ドレイク)ジョセフ・ソマー(ジョージ・バートン)デビッド・ハフマン(スティーヴン・ファラデー)クリスティーン・ベルフォード(ローズマリー・バートン)ジューン・チャドウィック(サンドラ・ファラデー)バリー・インガムハリー・モーガン(ケンプ主任警部)アン・ロジャースマイケル・ウッズ(ヴィクター)シーラ・ダニーズエリック・シンクレア
テレビドラマ
忘られぬ死 Sparkling Cyanide
2003年 英 |Sparkling Cyanide (2003) on IMDb
監督:トリストラム・パウエル 脚本:ローラ・ラムソン
出演: ポーリーン・コリンズ(キャサリン・ケンドル)オリバー・フォード・デイビス(ジェフリー・リース大佐)ケネス・クラナム(ジョージ・バートン)ジョナサン・ファース(マーク・ドレイク)スーザン・ハンプシャー(ルシーラ・ドレイク)クレア・ホルマン(アレクサンドラ・ファラデー)ジェームズ・ウィルビー(スティーヴン・ファラデー)リア・ウィリアムズ(ルース・レシング)レイチェル・シェリー(ローズマリー・バートン)Justin PierreJoseph Scatleyリチャード・クリフォードクロエ・ハウマン(アイリス・マール)ルース・プラットJack Fortuneドミニク・クーパーロジャー・フロストキース・ビセット
テレビドラマ
忘られぬ死 Meurtre au champagne
2013年 France2 「アガサ・クリスティーの謎解きゲーム」Les Petits Meurtres d'Agatha Christie |Meurtre au Champagne (2013) on IMDb
監督:エリック・ウォレット 脚本:シルヴィ・シモン
出演: サミュエル・ラバルト(ロランス警視)ブランディーヌ・ベラヴォア(アリス)エロディ・ナヴァール(エルビール)ジャン=フィリップ・エコフェ(ジョルジュ)クロード・ペロンアントワン・オッペンハイムエロディ・フランクHélène MédigueValentine Alaqui(ビオレット)アレクシ・ミシャリクLuis InacioJean-Maximilien SobocinskiSophie DescampsChristophe PiretRémy Genceドミニク・トマ(トリカール警視正)Nicolas CornilleMoïra Conrath