アガサ・クリスティー賞

「アガサ・クリスティー賞」は、 英国アガサ・クリスティー社の協力を得て、 公益財団法人早川清文学振興財団と株式会社早川書房が主催するミステリ小説の新人賞である。

第1回(2011)

2011年7月26日発表。 選考委員は北上次郎、若竹七海、小塚麻衣子(ミステリマガジン編集長)の3名。 受賞作は森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』。

黒猫の遊歩あるいは美学講義
森晶麿 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2013
でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽…日常に潜む、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」と、彼の「付き人」をつとめる大学院生は、美学とエドガー・アラン・ポオの講義を通してその謎を解き明かしてゆく。第1回アガサ・クリスティー賞受賞作。

第2回(2012)

2012年7月20日発表。 選考委員は有栖川有栖、北上次郎、鴻巣友季子、小塚麻衣子(ミステリマガジン編集長)の4名。 受賞作は中里友香『カンパニュラの銀翼』。

カンパニュラの銀翼
中里友香 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2015
1920年代後半の英国。エリオットには秘密があった。資産家の子息の替え玉として名門大学で学び、目が見えなくなった「血のつながらない妹」のため、実の兄のふりをして通いつめる日々。そんなエリオットの元に、シグモンド・ヴェルティゴという見目麗しき一人の男が現れる。物憂い眩暈。エレガントな悪徳。高貴な血に潜む病んだ「真実」―精緻な知に彩られた、めくるめく浪漫物語。第2回アガサ・クリスティー賞受賞作。

第3回(2013)

2013年7月9日発表。 選考委員は有栖川有栖、北上次郎、鴻巣友季子、小塚麻衣子(ミステリマガジン編集長)の4名。 受賞作は三沢陽一『コンダクターを撃て』(刊行に際して『致死量未満の殺人』に改題)。

致死量未満の殺人
三沢陽一 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2015
雪に閉ざされた山荘で女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は同泊のゼミ仲間の4人。外界から切り離された密室状況で、犯人はどうやって彼女だけに毒を飲ませたのか。容疑者4人は推理合戦を始めるが…そして事件未解決のまま時効が迫った15年後、容疑者の一人が唐突に告げた。「弥生を殺したのは俺だよ」推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真実とは?第3回アガサ・クリスティー賞に輝く正統派本格ミステリ。

第4回(2014)

2014年7月8日発表。 選考委員は東直己、北上次郎、鴻巣友季子、清水直樹(ミステリマガジン編集長)の4名。 受賞作は松浦千恵美『傀儡呪(くぐつじゅ)』(刊行に際して『しだれ桜恋心中』に改題)。

しだれ桜恋心中
松浦千恵美 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2014
若手文楽人形遣いの屋島達也は、師匠・吉村松涛のもとで充実した修業の日々をおくっていた。そんなある日、達也は怪しげな魅力を持つ花魁の文楽人形「桔梗」を見つける。桔梗は『しだれ桜恋心中』という演目専用に作られた、特別な人形らしい。だが、約60年前に『しだれ桜恋心中』が上演された際、技芸員が次々と不審死を遂げていたことを知り、達也は桔梗に近づくことを恐れはじめる。一方、補助金削減問題に揺れる日本文楽協会は、『しだれ桜恋心中』を呪いの演目として興行し、観客を呼びこもうとするが…。一つの演目に込められた想いが引き起こす悲劇を描いた、第4回アガサ・クリスティー賞受賞作。

第5回(2015)

2015年7月10日発表。 選考委員は東直己、北上次郎、鴻巣友季子、清水直樹(ミステリマガジン編集長)の4名。 受賞作は清水杜氏彦『うそつき、うそつき』。

うそつき、うそつき
清水杜氏彦 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2017
国民管理のために首輪型嘘発見器着用が義務付けられた世界。少年フラノは非合法の首輪除去で日銭を稼ぐ。強盗犯、痣のある少女、詐欺師など依頼人は様々で危険は日常茶飯事だ。だが彼にはある人のためにどうしても外したい首輪があった。それがフラノを首輪と彼自身の秘密へ導く…愛を乞う少年が辿り着く衝撃の結末とは? 小説推理新人賞とダブル受賞でデビューした超大型新人による第5回アガサ・クリスティー賞受賞作。

第6回(2016)

2016年7月11日発表。 選考委員は東直己、北上次郎、鴻巣友季子、清水直樹(ミステリマガジン編集長)の4名。 本賞は該当作なし。 優秀賞は春坂咲月『花を追え』。

花を追え ―仕立屋・琥珀と着物の迷宮
春坂咲月 早川書房/ハヤカワ文庫JA 2016
仙台の夏の夕暮れ。篠笛教室に通う着物が苦手な女子高生・八重はふとしたことから着流し姿の美青年・宝紀琥珀と出会った。そして仕立屋という職業柄か着物にやたらと詳しい琥珀とともに、着物にまつわる様々な謎に挑むことに。ドロボウになる祝着や、端切れのシュシュの呪い、そして幻の古裂“辻が花”…やがて浮かぶ琥珀の過去と、徐々に近づく二人の距離は果たして―? 第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。

第7回(2017)

2017年7月6日発表。 選考委員は北上次郎、鴻巣友季子、藤田宜永、清水直樹(ミステリマガジン編集長)の4名。 本賞は村木美涼『窓から見える最初のもの』。 優秀賞は西恭司『アラーネアの罠』。

窓から見える最初のもの
村木美涼 早川書房 2017
心療内科に通う女子大生、購入した油絵の真贋を疑う経営者、喫茶店の物件探しを依頼された不動産屋の女性、自分の名前を騙った失踪人に戸惑う会社員。年齢も性別も境遇もちがう4人の人生に待ち受けていたのは……細部の描写、精緻な構成が光る日常のミステリ。第7回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。

第8回(2018)

2018年7月5日発表。 選考委員は北上次郎、鴻巣友季子、藤田宜永、清水直樹(ミステリマガジン編集長)の4名。 大賞はオーガニック ゆうき『入れ子の水は月に轢かれ』。

入れ子の水は月に轢かれ
オーガニックゆうき 早川書房 2018
那覇・水上店舗通り―繁華な国際通りから一本入ったその場所は、猥雑なバックストリートだ。かつては湿地帯だったガーブ川を、戦後に不法占拠して生まれたワンダーゾーン。…いわば、風来坊たちの隠れ家である。水害で死んだ双子の兄の身代わりとして、偽りの人生を生きてきた孤独な青年・岡本駿。母を振り切って実家を飛び出した彼は放浪の果て、水上店舗通りに辿り着いた。高齢フリーターの川平健、そして老女傑の鶴子オバアと出会い、居場所を見つけた駿はやがて、オバアの店を譲り受け『水上ラーメン』をオープンする。しかし開店当日、最初の客が謎多き水死体として発見される。不審死を追う駿と健は、在日米軍、CIA、琉球王など、沖縄に滲む黒闇を目の当たりにする―! 第8回アガサ・クリスティー賞受賞作品。